私は2000年度には、沖縄本島にある琉球大学教育学部の研究生として、沖縄の芭蕉布とフランダース地方のリネン(亜麻布)との比較研究をするつもりであった。


フランダース地方について

フランダース地方は、日本語でフランドル地方とも呼ばれ、ベルギー王国の北部、オランダ語圏の地域である。英語ではフランデルス(Flanders)、オランダ語ではヴラーンデレン(Vlaanderen)と発音する。ベルギー王国は、1830年にワロン(フランス語圏)地域とフランダース(オランダ語圏)地域が合併し誕生した比較的若い国である。フランダース地方は1830年以前から存在し、南オランダの地域として長い歴史を持っているが、西ヨーロッパの複雑な歴史の中で、フランス、スペイン、オーストリアなどに占領された時代もある。美術界では、ベルギー王国が建国される前に、当時、南オランダ人であったフランダース人の油絵画家の「フランドル派」が有名であ

芭蕉布とリネンの比較研究の下準備

上記の比較研究の準備として、私は1999年に、西フランデレン州のコルトレイク(Kortrijk)にあったベルギー国立亜麻博物館を訪れ、館長のベルト・デウィルド(Bert Dewilde1925-2020)氏と面会する機会を得た。デウィルド館長はフランダース地方における亜麻の起源と歴史について、20年間集めたあらゆる文献、道具、絵や考古学的資料を用い整理し、1984年に著書「20 eeuwen vlas in Vlaanderen」(フランダースにおける亜麻の2000年の歴史)を出版した。これは439ページのオランダ語の部厚い本で、3年後の1987年に「Flax in Flanders throughout the centuries」というタイトルでその英語訳が出た(216ページ)。

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フランダース地方の亜麻に関する本と亜麻博物館

この本では、紀元以前から1980年代までの発展、フランダース地方の亜麻とリネンの物語を紹介している。絵や写真、詩などの資料をもとに、種子蒔きから収穫までの栽培道具とその使い方を図解し、時系例で伝えている。亜麻とリネンの手仕事が、老若男女を問わず、いかに過酷な労働を強いられたか、いかにそれがフランダース地方の豊かな生活基盤となったか、そして19世紀末から20世紀初頭にかけての機械工業がこの亜麻産業に終止符を打った事などを紹介している。一方、国立亜麻博物館では主に、亜麻の栽培から収穫までのリネン(布)の製造工程を、本物の衣服を着て本物の道具を手に持っていた等身大の人形を使い26シーンで描いていた。その亜麻博物館は、1982年~2012年、コルトレイク市の古い亜麻農場にあったが、現在では、「Texture」という別の建物に移っており、そこで亜麻の科学的な面も見せながら、道具や絵のみが展示されている。

上記の比較研究の中止の理由について

1999年、デウィルド館長は、芭蕉布とリネンの比較研究の締めくくりとして、国立亜麻博物館で芭蕉布の展示会を開催していいとおっしゃってくれた。当時、館長はすでに日本とのつながりができ、私が話していた芭蕉布に興味を持っていたようである。私は当初は、沖縄でも同じ様に芭蕉布が沖縄の人々の歴史を刻んできたと考え、その類似点(と相違点)を指摘する事で、何か根本的なものが見えてくるのではないかと期待していた。

最初、予定していた比較研究を2000年度の途中で断念した理由は2つある。先ず、実際に沖縄に来て苦労したのは、芭蕉布の歴史を語る資料を見つける事である。芭蕉布の歴史を纏める本が1冊もなく、長くてもA4サイズ1枚の文書しかなかった。もう一つの理由は、沖縄には苧麻というもう一つの植物繊維があり、その歴史が古く、しかも亜麻布(リネン)と同じ麻類である。この事から、私の考えた「沖縄の芭蕉布とフランダースの亜麻布との比較研究」はあまり意味がないのではなかろうかと判断した。

この様に、私は2001年度、琉球大学の法文学部に移り、外国人客員研究員として芭蕉布の起源や歴史などを調べる事になり、本芭蕉布研究を始めた。


大城 カトリーヌ

芭蕉布WEB資料館

2021年9月

さらに読む:

Vlas Blomme社の作成した日本語での記事「フランドル地方、コルトレイクのリネンの歴史